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病院を出たがすぐに走り出す気にはなれず、近くの宿でもう一泊して、翌日バスで移動することに決めた。
もともと全行程の半分以上はバスを使うことになると分かっていたので、何も病み上がりで走ることもない。





鉄道はほとんど走っていないのでバスターミナルには多くの人が集まる。





バスの車窓から。





日暮れ近くなって町に到着した。
バスを降りて分解していた自転車を組み立てるとすっかり日は暮れてしまった。
さて、宿を探しだ。

この町は高地にあるので、町中でも坂がけっこうある。
上り坂をがんばって漕いでいると、行く手から二人乗りをした自転車が駆け下りてきた…と思った次の瞬間、そのまま僕の自転車に正面衝突した。

     /    /⌒ヽ
 三 ⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン
   /    |    /  \            _ ∩
  /  二  ( ヽノ  人\ =-   ⊂/  ノ )
 /      ノ>ノ  Σ  ( \ =-   /   /_,,ノ
     三  レレ    ⌒ ガッ     とと, /

僕は左に、奴らは右にふっとんだ。なんてこった。最悪だ。このクソマラウイ人め。殺してやる。
「ライトつけてただろうが!!ナニを見てるんじゃくそボケェ!!」
日本語で悪態をつきながら怪我がないか、自転車に損傷がないかチェックする。
身体は無事なようだったけど、あたりはまっくらなので自転車の様子はよくわからない。自転車のライトだけが頼りだ。

少ししてからくそったれのマラウイ人が謝りにきた。警察沙汰になるのを恐れたのかもしれない。
僕はぶちぶちと日本語で文句を言ったが、彼らが弁償してくれるわけじゃあるまいし、バカバカしくなってきた。
警察を呼ぼうか迷ったけど、はっきり言ってまわりになにもない。建物がしょぼしょぼあるくらいで、ほとんど人気がなく、おまけに明かりもない。
こういった国じゃ警察に頼ったところでたかが知れている。
もし自転車に損傷があった場合、日本に帰ってから保険を使うときの証明に……いやいや待て待て。
そんなことより自転車の損傷を正確にチェックするほうが先だ。今後の運命を決定づける大きな要因だった。

フロントキャリアがゆがんでしまって、ホイール内側のスポークと干渉するようになってしまっていた。
走りはじめようとしたらチェーンがうまくまわらない。ハンドルも軸がぶれてしまっていた。
なんとか自走する状態に応急処置して、ハンドルがぶれたままのろのろと自転車を走らせた。くそ。
この町もがらんとしていて無駄に広い。広いので明かりの少ない、ほとんどまっくらなところも多い。商店もとっくに閉まっている。
そういったところの暗がりでナニやら人影がうろうろしたり、話し声が聞こえてきて危険な雰囲気を感じた。旅人の危険センサーに反応アリである。
とにかく宿を取って安全な明るいところで損傷箇所をチェックしなくては。





真っ暗な町をさまよってようやく見つけた宿は一泊30ドルくらいの上級ホテル(といっても日本の下級ホテルくらいだけど)だった。
高くて迷ったけどここに泊まることにした。とにかく自転車の様子を確認しなければならないし、この状態で夜の町をうろうろするのはよくない。
宿の受付の、若いマラウイ人の女性はきちんとした態度で、事の経緯を話した僕を誠実に心配してくれた。

自転車のダメージはパッと見たところ、フロントキャリアのゆがみとハンドルのぶれだけが問題のように思えた。なんとか直せそうだ。よかった。
おなかも減っていたので今日はもう休むことにした。
嬉しいことにシャワーからはお湯が出た。宿の人に大きいバケツを借りて即席のフロにつかったら、猛烈に睡魔が襲ってきて文字通りベッドに沈んだ。




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