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朝起きてまずは自転車の修理に取り掛かった。
改めて確認すると、フロントキャリアが歪んでいるのと、フロントサイドバッグの片方が破れて穴が空いている他は大きな問題はないようだった。
キャリアはペンチで矯正し、バッグはガムテープで補強。





朝から曇っていたけど、出発するとさっそく雨が降ってきて、すぐに豪雨に変わった。おまけに下り一辺倒かと思った道はアップダウンが激しい。
アスファルトの路面を太いニシキヘビがうねうねと横切っていった。なんだありゃ……。

幸いにもしばらくすると雲が切れてきた!むこうの空はところどころ青空が見えている。どうやらこの先は晴れているようだ。ホッとしながら進んでいくと……。

「おぉ…?」

道のむこうから、僕と同じようなカッコウの自転車乗りがやってくるではないか!
むこうも驚愕した顔で僕を見つめながら走ってきた。東洋人だ。
距離が小さくなるまでなんと言っていいかわからず、鏡みたいにゆっくりと近づいてからほとんど同時に声をかけた。

「あ…えー」
「えーっと…」

どうやら日本人のようだ。僕は日本語で聞いた。

「こんにちは。あの、日本人の方ですか?」

「はいそうです。カイロから来たんですか?」
※カイロはここから5000キロ以上離れている

「あ、いや。えーっと、そんな遠くではなくてタンザニアのダルエスサラームからです」
※ダルエスサラームはここから1500キロくらい離れている

一般の人の感覚では理解できそうにない妙な切り口で会話ははじまった。





その人はフミと名乗り、30歳くらいの自転車乗りだった。
フミさんの服装や自転車の装備を見れば年季の入った旅人ということはすぐにわかった。
日焼けして足の筋肉はたくましくついており、靴ではなくサンダルを履いている。
フレームはホコリや泥で汚れていて、バッグのレインカバーも相当使い込まれている様子だ。スペアのタイヤも積んでいる。
自転車はGIANTの旧型のランドナーか、マウンテンバイクをドロップハンドルに改造しているみたいだ。
僕の自転車やバッグもアフリカに来てからだいぶ汚れたと思ってたけど、それよりもずっと年季が入っている。

フミさんは3月初旬にアフリカ最南端のケープタウンから出発したらしい。
今までにヨーロッパからユーラシアまで半分横断したことがあるそうだ。アフリカ縦断とユーラシアの残り半分を横断すると言っていた。
しかしこっちへ来てから初めてまともに日本人の、しかも自転車乗りと出会った。
元々旅に出るまえもそんな自転車乗りの旅人のお話を聞いて行動に起こしたということもあるので、僕は興奮していた。
こんな地球のかたすみの辺境の国の、何もない山の中で、お互いに何千キロか先の目的地に向かう途中でたまたま出会うなんて奇跡のようだ。
しかし人生はそんなもんの連続なのかもしれない。








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