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朝、目が覚めたらやはり歯が痛い。ズキンズキン痛んで、ちょっと噛み合わせただけで耐えられないくらいの鋭い痛みが走る。
しまった。多少の怪我や日焼けはほっとけば治るが、虫歯の痛みは治らない気がする。
まだ旅は半分もしていない。帰国まではあと2週間以上ある……。

なんとか朝食をとって宿を出たが、ペダルを漕ぐ足が重い。
疲労が残っているのかと思ったが、それにしてはまったく力が入らない。体中がだるい。

これは、何かやばい。





町にある博物館に立ち寄って、入り口近くのソファに倒れこんだ。
このあたりの建物としてはとてもまともである。国からお金が出たのだろう。





入り口は開いていたが、まだ朝だからか受付に人はいなかった。
持っていた体温計で熱を測った。37.0℃。もう一度測った。37.0℃。

       ____
     /      \
   / ─    ─ \  ウソだお… このダルさは
  /   (○)  (○)u  \ 微熱ってレベルじゃねーお…
  | u    (__人__)    |
  \     ` ⌒´  u  /

博物館の管理員らしき若い男がやってきて床を掃きはじめた。ソファに倒れこんでいる僕を見て彼は話しかけてきた。

「やあ」
「…やあ」
「…大丈夫か?」
「たぶん病気です」
「救急車を呼ぶか?」
「…いや、少し休ませてください…」
じわじわと冷や汗が出てきた。脳裏に何度も読んだマラリアの症状についての説明文が浮かんだ。

  『マラリアを発症すると、40度近くの激しい高熱に襲われるが、比較的短時間で熱は下がる。
   しかし、三日熱マラリアの場合48時間おきに、四日熱マラリアの場合72時間おきに、繰り返し激しい高熱に襲われることになる。
   (これが三日熱、四日熱と呼ばれるゆえんである。)卵形マラリアは三日熱マラリアとほぼ同じで50時間おきに発熱する。
   熱帯熱マラリアの場合には周期性は薄い。いずれの場合も、一旦熱が下がることから油断しやすいが、すぐに治療を始めないとどんどん重篤な状態に陥ってしまう。
   一般的には、3度目の高熱を発症した時にはたいへん危険な状態にあるといわれている。…』


ふたたび体温計で熱を測った。37.2℃。上がっている。確か、マラリアは急に熱が出るはずだった……。

「すみません、病院をお願いしたいです。救急車を呼んでください」
こういうときは早期発見が重要なはずだ。もうなりふり構っていられない。
「オーケー。今呼んでくるから待ってて」

管理員の男はほうきを置いてまじめな態度で心配してくれた。
普段はおちゃらけてギブミーマネーしか言わないクセに、ときどきしっかり世話を焼いてくれやがるんだ、こいつらは……。

「待ってれば救急車が来るよ」
「ありがとう」

ソファにもたれかかって目を閉じていろいろ考えた。
海外で熱を出すのははじめてじゃなかったけど、アフリカの、マラリアが頻発しているような国で熱が出てしまった。
しかも世界最貧国のひとつであるマラウイは、タンザニアよりもさらに医療設備が整っていないはずだった。
もしマラリアだったら、こんな地方都市の病院でちゃんとした治療が受けられるだろうか。
いや、マラリアが頻発しているなら意外ときちんとした検査や療養を受けられるかもしれない。
なぜ突然熱が出たのだろう。昨日の夕方、全開で走りすぎたせいかもしれない。
ほとんど休憩なしで、ものすごい汗を流して走った。それで身体の抵抗が落ちたのかもしれない……。

20分ほど経ったけど救急車は来ない。そもそもこっちの救急車ってサイレン鳴らすのか?男がぐったりした僕を見て声をかけてくれた。

「しかたない、病院まではそんなに遠くないから、自転車で行こう。行けるか?」
「オーケー、わかった」

彼に先導されながらしばらく走ってると、前からぼろいワゴンが走ってきてすれ違ってから止まった。車体には申し訳程度に緑十字のマークがついている。
赤色灯やカーテンはもちろん、担架もついていない。ただのワゴン車だ。
「すまんすまん、遅れちまった。乗ってくれよ」

          ____
       / \  /\  キリッ
.     / (ー)  (ー)\ すまんすまん、遅れちまった
    /   ⌒(__人__)⌒ \
    |      |r┬-|    |
     \     `ー'´   /
    ノ            \
  /´               ヽ
 |    l              \
 ヽ    -一''''''"~~``'ー--、   -一'''''''ー-、.
  ヽ ____(⌒)(⌒)⌒) )  (⌒_(⌒)⌒)⌒))


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        /_ノ  ヽ、_\
 ミ ミ ミ  o゚((●)) ((●))゚o      ミ ミ ミ 馬鹿言ってんじゃねーおwwwwwww
/⌒)⌒)⌒. ::::::⌒(__人__)⌒:::\   /⌒)⌒)⌒)   さっさと来いおwwwwwww
| / / /     |r┬-|    | (⌒)/ / / //
| :::::::::::(⌒)    | |  |   /  ゝ  :::::::::::/
|     ノ     | |  |   \  /  )  /
ヽ    /     `ー'´      ヽ /    /
 |    |   l||l 从人 l||l      l||l 从人 l||l
 ヽ    -一''''''"~~``'ー--、   -一'''''''ー-、
  ヽ ____(⌒)(⌒)⌒) )  (⌒_(⌒)⌒)⌒))

病院。アフリカの病院てどんなだ。キレイとまではいかなくとも、安宿よりはマシだろう。
ぼうっとしたアタマがアメリカのドラマで出てきたような病院をイメージしていた。
「海外の病院」と聞いてイメージできるのはERくらいだ。確か黒人もいたし。早く着かないかな、ER。

運転手と助手席の男は、さっきから二人でゲラゲラ笑い合っている。頭が痛い。

                / ̄ ̄\
              /  ヽ_  .\おい あそこにいるのでっていうだろ?常識的に考えてwwww
              (● )(● )  |     ____
              (__人__)      |     /      \
              l` ⌒´    |  / ─    ─  \ ワロスwwwwちょっと車止めてからかってやるおwwww
             . {         |/  (●)  (● )   \
               {       / |      (__人__)      |
          ,-、   ヽ     ノ、\    ` ⌒´     ,/_
         / ノ/ ̄/ ` ー ─ '/><  ` ー─ ' ┌、 ヽ  ヽ,
        /  L_         ̄  /           _l__( { r-、 .ト
           _,,二)     /            〔― ‐} Ll  | l) )
           >_,フ      /               }二 コ\   Li‐'
        __,,,i‐ノ     l              └―イ   ヽ |
                    l                   i   ヽl

        ./ニYニヽ
 r、r.rヽ.  / (0)(0)ヽ
r |_,|_,|_,|/  ⌒`´⌒ \   朝からなにやってんだっていうwwww
|_,|_,|_,|_,| , -)    (-、.|   おまえら仲良すぎだっていうwwww
|_,|_,|_人 (^ iヽ__ ノ l |
| )   ヽノ |  `ー'´   /
|  `".`´  ノ
   入_ノ
 \_/
   /
  /

頼むから早く病院に連れていってくれ……。





病院に着いた。





期待はしていなかったが、野戦病院という言葉が連想されるような、そんな場所だ。
床は砂で汚れていて、窓ガラスはところどころ割れている。





院内では人が座り込んでたり、大声で話していたりする。
救急車の運転手はここでも世間話してノロノロと先導する。だが今はこの人についていくしかない。





受付の看護婦さんは、だいぶ知的な方だった。ふらふらになりながらなんとか症状を伝えた。
とりあえずマラリアの疑いがあるので病室に案内された。






最低限の荷物だけ持ってベッドに倒れこんだ。ベッドと言ってもシーツはない。ただのマットだ。
隣のベッドには若い男が横になっていたけど、相手をする元気もなく倒れこんだ。身体じゅうが発熱してじっとりと汗が出た。肘や膝の間接が痛い。
熱を測った。37.4℃。

横になったら少しは休めるかと思ったけど、大声で世間話をする大人がいたり、泣き叫ぶ子供がいたり、ちっとも眠れない。
ばかでかい音量で音楽を流しはじめたときは、こいつらは頭がおかしいと殺意がめばえるほどだった。
熱を測った。37.7℃。あああ。俺だいじょうぶかな。

空調はおろか扇風機すらないので暑い。うだるような真夏の暑さである。




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